悲しみから希望を紡ぐ The Power of Compassion

ダライ・ラマ法王と若手宗教者100人の対話@増上寺
11月19日(火)に開催されました、ダライ・ラマ法王猊下と若手宗教者100人との対話集会に、スーパーサンガは後援という立場で参加いたしました。

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さまざまなテーマについての対話が繰り広げられ、深く有意義な集会となりましたが、当日の法王猊下のご発言の一部が、一部のメディアを通じて誤解を招く表現で伝えられてしまいました。焼身抗議に関する重要なご発言でありますので、法王猊下の真意をご理解いただくべく、当日の対話者として参加した飯島俊哲師(当会幹事)より、対話の様子とともに、法王猊下のご発言の正しい趣旨をお伝えいたします。

「悲しみから希望を紡ぐ The Power of Compassion、ダライ・ラマ法王と若手宗教者100人の対話@増上寺」と題して開催されたこの度の企画。主催団体であるリヴオンは、「悲しみから希望を紡ぐ」をテーマとして、法王猊下との対話を通して、参加する宗教者一人ひとりが、それぞれの立場で希望ある未来を創造する一歩を踏み出せるきっかけが得られる場になればと準備を進めてきました。当日は予想を超える200人以上の宗教者が集い、また在日のチベット人、チベット支援者、そして一般の参加者が一堂に増上寺大殿に集まりました。

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ダライ・ラマ法王猊下は、9時20分過ぎに増上寺にお着きになり、そのまま大殿へお入りになりました。まず、増上寺の八木法主台下お導師による法要が勤修され、続いて対話集会へと移行いたしました。法王猊下と対話をする登壇者は、自死防止活動に奔走する臨済宗妙心寺派大禅寺住職の根本紹徹師、小児がんの子どもと家族のケアをライフワークとするカトリック・メリノール会修道女であるキャサリン・ライリー女史。そしてスーパーサンガからは不肖私、飯島俊哲がこの得難い機会をいただきました。

写真中央が筆者

▲写真中央が筆者

この中で、私は法王猊下に仏教と暴力の問題、特にはチベット本土で続く焼身抗議に関してご質問申し上げました。以下に、当日のやり取りの内容について、ご紹介をいたします。
まず私から、学校など子供たちが生活する施設に、危害を加えようと不審者が入ってきた場合、その不審者を制圧するために暴力という方法を使ってもよいのか。子供たちの命を守るという動機が根底にあれば、仏教者として暴力という方法を使うことは肯定されるのかとご質問しました。それに対して法王猊下は、「暴力であるか非暴力であるかは、どのような心で行われているのかで決まります。他人はどうでもよいという利己的な行いは、表向きは柔らかに見えても暴力的です。利他の思い、他の者を救いたいという思いによって一見、ひどい行いをしてしまい、それが暴力的にみえたとしても、利他の心から発しているわけですから、非暴力の行いになります」とお答えになりました。これに対して、それではこれを一人間の問題ではなく、国というレベルで考えた場合はどうでしょうかと問いを重ねました。以下は核心部分になりますので、当日の音声データから起こしたものを掲載いたします。

◇ ◇ ◇

飯島:「本土では焼身抗議という大変な抗議活動が行われていますが、それはまったくやむことなく、伝え聞くニュースではまだ小さな子どものいる母親までもが自分のいのちを灯明に変えて、その苦しみを世に問うような大変なおこないがされているのですけども、そういった暴力性の中でわたしたち仏教者というのは何ができるのかぜひお聞かせいただければと思います」

法王:「このように自らの命を犠牲にして何かに抗議するという行いは、今までも行われていたわけです。例えば中国の中におきましても、ある中国の仏教のお寺の僧侶の方が自らの命を投げうって、人びとのために抗議をしたことがありますし、ベトナムの中でもそういったことは起こっています。そして私たちの国チベットでも全く同じです。

このように自分にとってもっとも大切なものである命を投げ出して、他の人たちを救うために、世の中にそういったことの不条理を問いかけようと、こういう行いというものは本当に尊ぶべき、本当に美しい行いだと思います。そういった行いというのは、究極的には他の者たちに暴力を使わないで自らを痛めるということによって、世にその不合理性を問うという行為であるわけですから本当に素晴らしい行為ではないかと思います。

 これに関しましては、もちろん本当に非常に心が痛む悲しい出来事であるわけです。私はひとりの仏教の僧侶でありますので、そういう意味においても本当に焼身自殺者が出るということに関しては本当に心を痛めているわけなんです。これは政治的な状況によって、どうしようもなく起きてしまっていることであり、私自身は約2年前に完璧に政治的な分野における最高指導者としての位置を引退しておりますので、そのような状況であります」

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この法王猊下のお答えについて、当日取材に来たマスコミの中で、猊下が全く意図しない内容を報道したものがありました。その記事には『チベット族僧侶らの焼身自殺理解 ダライ・ラマ「尊い行為」』(共同通信)という内容が書かれていました。当日の参加者はこの記事を読んで、誰もが違和感を覚えたでしょう。また記事の最後に記者が加えた一文「焼身自殺に理解を示したともいえ、中国政府を刺激し、内外に波紋を呼びそうだ」からは、むしろこの記事が意図的に「波紋」を作り出し、対立を煽っているとも捉えられ、スーパーサンガとしてこの事態を重く受け止め、林代表以下幹事が各報道機関に異議申し立てを行いました。
主に主張したのは以下の2点です。

  • この記事は、中国政府が後を絶たないチベットでの焼身抗議者に関連してダライ・ラマ法王を非難の対象とする口実として利用する可能性がある。
  • この報道を真に受けた本土のチベット人たちが、更なる焼身抗議を実行に移す恐れもある。

このようにこれは人命に関わる一大事であると、猛抗議しました。現在、問題の記事はネット上からは削除され、訂正記事が閲覧できるのみです。それらの記事には通訳者の誤訳があったがために誤解を生じるような報道がなされたとあります。しかし、確かに通訳の内容にやや適当でない訳語であったにしても決して誤訳などではなく、前後の文脈を理解すれば法王猊下の意図している内容は十分に理解できるものでありました。報道に関わる方たちには、チベットの大変な現状をきちんと理解した上で、以後十分に配慮していただきたく思います。以上、法王猊下のご発言報道に関しご報告します。

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参考:主催団体リヴオンのサイトより 
写真提供:伊勢祥延(写真集『リトルチベット』著者)
文責:飯島俊哲