週刊「国際貿易」(日本国際貿易促進協会発行、2017年5月23日号)より、執筆者のご許可を得て転載いたします。【追記】本書収録の短編の題名に誤植がありましたので訂正(誤:花輪→正:鼻輪)いたしました(6月7日)

黒狐の谷 - 書影

書名:闘うチベット文学 黒狐の谷
著者:ツェラン・トンドゥプ著
訳者:星泉/三浦順子/海老原志穂/大川謙作
判型:四六判・上製 416頁
発行:2017年04月
出版:勉誠出版
価格:3400円+税
ISBN 978-4-585-29142-8 C0097


書評

 著者はチベット語で執筆しているモンゴル族の作家。17編の小説を収録。訳者は著者の作品について「批判精神に富んでいる」と紹介。確かにどの作品も皮肉たっぷり。
 書名の作品は生態移民(生態系の保護、修復を目的とする移民)政策で移住した人々の厳しい現実と悲劇を描いた作品。「復讐」は父親の復讐を実現する話。その復讐は連鎖することが、判明し、主人公は次の次の復讐のため準備するところで終わる。「月の話」は科学技術に思い上がった人類に対する批判的な内容。「鼻輪」ではウサギのせいである老人が死にそうになるが、実はウサギのおかげで命拾いしていた。

(亜娥歩)

内容

現代人の孤独という同時代的な問題を投げかけるチベットを代表する作家・ツェラン・トンドゥプの初翻訳小説集。社会や宗教、政治の腐敗に対する風刺をテーマに、変わりゆく世相や、人びとの抱える現実や苦悩をリアリスティックな筆致で描き出す。
チベットの人びとだけでなく、英語、フランス語、ドイツ語などにも翻訳され、世界各地で読まれている。およそ30年にわたる作家活動の中で生み出された数多くの作品の中から、珠玉の短編15篇、中編2篇を掲載。

著者プロフィール

ツェラン・トンドゥプ(次仁頓珠 Tsering Döndrub)。1961年、チベット・アムド地方ソクゾン(中国青海省黄南チベット族自治州河南モンゴル族自治県)の牧畜民家庭に生まれる。黄南民族師範学校を卒業後、1983年に短編小説「タシの結婚」(未邦訳)で作家デビュー。青海民族学院、西北民族学院で文学について学んだ後、1986年に故郷に戻り、司法局に勤務しながら創作活動を続ける。
その後、県誌編纂所に異動し、県の十年鑑の編纂業務に従事するかたわら数多くの小説を発表する。県誌編纂所所長、档案局局長を経て退職、現在は創作に専念している。チベットの現代文学を代表する作家の一人。作品は様々な言語に翻訳され、国際的にも名高い。代表作に長編小説『赤い嵐』、『僕の二人の父さん』(いずれも未邦訳)など。